藤田きょう子の映画紹介ブログ

ラジオDJ「藤田きょう子」による映画紹介です。担当番組の中で紹介した映画(主に新作)をネタバレなしにレビューします。

『21世紀の資本』

21世紀の資本」は経済を扱ったドキュメンタリー映画です。

というと、難しそう、私には興味が持てないと思われる方もあるかもしれませんが、そんな作品なら紹介していません!

経済は人間が生活し生きていくために世界中どこにでも存在するもの。

だからこそ、誰にでも関係があるといえるんです。

難しい言葉や概念、現在の経済状況を様々な映画の1シーンやアニメ、イラストを使い、経済における知識人の言葉を効果的に見せて歴史的に時系列になぜそうなったか、だれが得をしたのか、政治や労働、戦争や歴史との兼ね合いをわかりやすく見せてくれる。そんな作品なんです。

実際私も経済の専門用語などは苦手で、今作の原作、元になっている本はトマ・ピケティが2013年に本国フランスで出版した同じタイトルの大ベストセラー経済書なんですが、728ページに及ぶこの経済書を本で読むのは無理だと思います。

原作もイマジネーションに訴えかける経済書と思えない読みやすい本だそうですが、さすがに自信がない。でもこの映画なら大丈夫!!

しかも原作者のピケティ自らが映画製作に参加し、脚色、監修、出演も果たしていて、高らかになぜこう考えるのかを柔和な笑顔で話してくれています。

そもそも原作本がそれだけ読みやすい仕立てになっていることからも、映画化というオファーが世界中から押し寄せたということの理由です

が、ピケティが選んだのがニュージーランドの製作チーム。グローバルな視点を持った人に作ってほしいと考えたからだそうで、まさにアメリカでもイギリスでもフランスでもない地域から、世界をどう見るかという視点で作られた作品です。

この作品の具体的な内容について少しだけ紹介しながら私が考える見どころもお伝えしていきましょう。
まず21世紀の資本という作品は資本収益率rは経済成長率gを上回っているr>gということを丹念に説明していきます。

過去300年間のデータから分析されたこの結果を欧米を中心とした世界の歴史とともに紐解いていくものです。説明すると、資本収益率rとは土地や預金、株式などの資産が生み出す利益のこと。

経済成長率gとは経済全体の成長のこと。

要は金持ちの財産の生み出す利益の方が、世の中の経済成長より増え方が大きいということ。

もっと平たくいいかえると働いても働いても給料は上がらず暮らし向きは上がってゆかない、しかし財産や土地などの大きな資産を持つ人が投資などで億ションを飛ぶように購入し、ざらに利益を生み出す。

いわゆる現代の格差社会がその象徴といってもいいんでしょうね。それを、18世紀から19世紀、1%の貴族が富を独占していた時代から歴史的に紐解き、そこにバルザックジェーン・オースティンなど、名作小説に描かれた社会とともに表してみせる。名作映画の1シーンもふんだんに使われ、プライドと偏見、ゴールド・ディガース、嵐の三色旗などから映像でその社会の格差をイメージングさせてくれます。

フランス革命植民地主義、二度の世界大戦や大恐慌オイルショックリーマンショックなど社会の混乱と経済を結び付けて時系列で示してくれます。

シンプソンズなどのアニメのシーンも挿入され、簡潔に、感情は疎外され、シンプル
に紐解いてくれるんです。

そしてその後後半に待っているのは21世紀の、今の私たちの状況。

ずばりここに描かれていることこそがこの作品の見どころだと思います。

これがなんと18世紀の1%の貴族が生まれながらの特権を維持する世界と非常に似た状況にあるとピケティは解きます。

自分の生きてきた長さで現実を見るのをやめて、今こそ考えなければいけない。

経済がどうとか思ってこなかった私たちこそ、政治も経済も生活も労働もすべてが私たちにあまりに密接で、歴史を見たらわずかな間にこんなに変わってることをしっかり認識して、これまで通りこれからもこのままなんだという思い込みに逃げ込むのはやめなければ。

次の世代のためにどんな世界を作れるのか、私たちが作るのか、考えなければ。

コロナ禍に見舞われた今だからこそ、日常はずっと同じではないと実感している今だからこそ、まずはこの映画をご覧になってみてはいかがでしょうか。